論文の解説 研究・リサーチ

【朗報】資産は本当に寝かせて増やすべきだった!

インデックス投資界隈には、水瀬ケンイチさん著の「お金は寝かせて増やしなさい」という有名な投資の入門書がありますね。

手間が掛からず中長期的に成長が期待されるインデックス投資の利点を「寝かせる」と上手く表現したタイトルだと思われます。

しかし、資産は本当に私たちが寝ている間に増えているかもしれません。この記事では、その点を検証した論文についてご紹介します。

ご参考 Hendershott, Livdan and Rösch (2018) "Asset Pricing: A Tale of Night and Day"

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論文の概要

論文のタイトルのアセットプライシングとは、ざっくり説明すると株式や債券など資産価格が決まる要因について研究する分野です。

インデックス投資の理論的な背景となっているCAPMに基づけば、株価は株式市場全体との連動性を表すベータによって決まります。

つまり、株式市場との連動性が高い高ベータ株は期待リターンが高くなるように価格が決まり、連動性が低い低ベータ株は期待リターンが低くなるように価格が決まります。

しかし、現実の株式市場においてはCAPM理論通りに株価が決まっているわけではないことがその後の研究により実証されています。

逆に、ベータが高い株式のリターンが低く、ベータが低い株式のリターンが高いという現象も観察されます(低ボラティリティ効果)。

これは、全ての投資家が同じ見通しをもつ、税金や取引コストがない、借入や空売りの制約がないといった理論の前提が、現実では成立しないことが一因であると言われています。

これによってCAPMの価値が失われる訳ではありませんが、時価加重指数がリスクとリターンの観点から最も効率的なポートフォリオであると考えている投資家は要注意です。

しかし、ここで今回の論文が登場します。

出所:Hendershott, Livdan and Rösch (2018)

論文の検証では、株式市場の日中リターン(寄りから引け)においては、ベータが高いほど低リターンである一方で、夜間リターン(引けから寄り)においては、ベータが高いほど高リターンである傾向が観察されました。

つまり、一般的な定義である前日の終値から当日の終値で計算されたリターンではCAPMが成り立っていないとしても、終値から始値で計算された夜間リターンでは部分的にCAPMが成り立っている可能性があるということです。

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TOPIXの検証

論文から得られる1つの示唆は、市場が閉じている間に取っているベータにこそ価値があるということです。

ここでTOPIXのリターンを用いて、簡単なシミュレーションをしてみます。

TOPIXのリターンを指数の始値と終値を用いて、夜間リターン(引け→寄り)日中リターン(寄り→引け)の2つに分解します。

出所:Yahoo!ファイナンス(2007年12月末 - 2020年5月末)

結果はグラフの通り。夜間のリターンが安定してプラスである一方で、日中のリターンが安定してマイナスであることがわかります。

つまり、横ばいで価値がないと言われがちな日本の株式市場も、私たちが寝ている間はプラスのリターンを稼ぎ続けていたのです。

逆に、私たちが株価を見ている日中においては、日本の株式市場は下落ないしは横ばいで推移していたということになります。

夜間日中TOPIX
リターン
(年率)
8.7%-7.5%0.5%
リスク
(年率)
12.2%16.8%22.8%
リターン/
リスク
0.71-0.450.02
出所:Yahoo!ファイナンス(2007年12月末 - 2020年5月末)

これらの現象を基に、引けにTOPIXをロングし、寄りにTOPIXをショートする投資戦略を検証すると、安定したリターンを稼ぎます。

シャープレシオが0.8ですから、単純な戦略の割には驚異的なパフォーマンスであると言えるのではないでしょうか。

投資戦略TOPIX
リターン
(年率)
14.8%0.5%
リスク
(年率)
18.5%22.8%
リターン/
リスク
0.800.02

このような現象の背景には、何が起こるかわからない夜間のリスクを負ったことに対する報酬であるという説や、実需による為替の動きが影響しているという説などがあるようです。

投資クラスタには、古くから「おはぎゃー」というネタがありますが、それを受け入れる覚悟をもった投資家は、相応のリターンが得られるということなのかもしれません。

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まとめ

このような日本株の夜間と日中の値動きはそれなりに知られている現象ではあるのですが、アップデートしてみたら2019年4月以降、少し有効性が落ちているようです。

実際に試したことはありませんが、引けに先物ロング、寄りに先物ショートをすれば戦略のリターンは再現できるのでしょうか。

この記事は、このような投資戦略を推奨しているという訳ではなく、市場に対する理解を深めるという趣旨で読んで頂けると幸いです。

「お金を寝かせて増やしなさい」、改定版を出版される際はコラムとしていかがでしょうか。

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