論文の解説 研究・リサーチ

従業員の満足度が高い企業は株式リターンも高い?働きがいのある企業に投資をしよう

将来の高いリターンが期待できる銘柄を見つける際に、投資家の皆さんはどのような点を重視して銘柄を分析していますか。

企業の事業価値、株価の割高割安、他の投資家の動向...様々な視点があると思いますが、従業員の満足度が高い企業は将来の株式リターンも高いことを検証した有名な研究があります。

この記事では、米国企業を対象として従業員満足度と株式リターンの関係を研究した論文についてご紹介したいと思います。

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働きがいのある企業

従業員満足度と株式リターンの関係について検証をするためには、まずは従業員満足度が高い企業を見つけなければいけません。

そこで論文が着目したのが、Grate Place To Work®︎が毎年1月に米国のFortune誌で公表している働きがいのある会社ランキングです。

出所:Grate Place To Work®︎ HP

▲ こちらが2019年に公表された「働きがいのある会社」の上位10社。日本でよく知られた企業もランクインしていることがわかります。

このランキングは、1984年3月に初めて公表された後、1993年2月に更新、1998年以降は毎年1月にFortune誌で公表されています。

ランキングは、ランダムに選ばれた従業員のサーベイ回答に基づく従業員スコアと企業の職場環境の評価に基づく企業スコアを組み合わせ、総合的に働きがいの高い上位100社が選ばれます。

ランキングの詳細について気になる方は、Grate Place To Work®︎のHPをご参照ください。

論文では、ランキング上位100社のうち、上場している会社で構成されたポートフォリオのリターンを分析することで『働きがいと将来の株価リターンの関係』について検証を行なっています。

このようなランキングを用いて分析することで、測定が難しい企業の働きがいという概念を明確化できることや有名なビジネス誌での公表により市場の反応を観察しやすいといったメリットが存在することが指摘されています。

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働きがいと株式リターン

出所:Edmans [2011]

▲ そして、ランキング上位の働きがいのある会社をポートフォリオとして保有した場合のリターンの分析を行った結果がこちらの表です。

緑色でハイライトされている数字がポイントですが、働きがいのある会社のポートフォリオは、市場リターン(βMKT)、バリュー効果(βHML)、サイズ効果(βSMB)、モーメンタム効果(βMOM)を調整した上で、統計的に有意な超過リターンが観測されました。

これが一般的な投資効果で説明できない『働きがいによってもたらされた超過リターン』であり、月に0.15%〜0.31%、年間で1.8%〜3.5%の超過リターンを得ることができています。

この結果は、働きがいのある会社のポートフォリオを等ウェイト(Equal-weighted)で構成しても、時価総額加重ウェイト(Value-weighted)で構成しても、同様の結果が得られました。

また、市場リターンをリスクフリーレート(Risk-free)、業種構成を合わせたポートフォリオ(Industry)、特性を合わせたポートフォリオ(Characteristics)と変えても同様の結果が得られ、頑健性も高いと判断できます。

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働きがいと株式リターンの関係

それでは、なぜ働きがいのある会社が高い株式リターンをもたらすのでしょうか。これは2つの理由から説明できると指摘されています。

人的資本の重要性

1つ目は、企業の競争力を左右する要因として人的資本の重要性が高まっているということです。

20世紀初頭の工場や生産設備中心の企業においては、従業員の労働は単純作業中心であり、特別な知識や技術は必要ありませんでした。

そのような環境において、従業員は原料などと同じように製品を生み出すインプットに過ぎず、経営者にとっては雇用のコストを抑えて利益を最大化することが重要でした。

一方で、近年では企業の付加価値、競争力における従業員の役割は大きく変わり、工場や生産設備よりも人的資本の質やイノベーション力がより重要になってきています。

このような環境においては、会社の働きがいは従業員の雇用維持や労働意欲の向上につながり、長期的な企業価値向上につながると考えられます。

無形資産価値の評価

2つ目は、働きがいを市場がどのように評価するかということです。

市場のあらゆる情報が株価に正しく織り込まれていれば、市場を上回るリターンは得られないはずですが、株式市場が無形資産の価値を正しく評価できないということは、多くの先行研究において指摘されています。

例えば、研究開発費が高い企業や広告宣伝費が高い企業、ソフトウェア開発費が高い企業に投資をすることで、市場を上回るリターンが獲得されたと報告されています。

企業の働きがいも同様に、企業にとって長期的に価値をもたらす要素である一方で、市場がその価値を正しく評価できないことで株価が過小評価され、将来の高いリターンにつながります。

さらに、働きがいについては、その過小評価が相対的に大きく、持続性も長くなる可能性があると指摘されています。

その理由として、働きがいは研究開発費や広告宣伝費のような目に見える項目と比較して、評価することがより困難であることがあげられます。

また、働きがいが企業にとってプラスになるのかマイナスになるのか、必ずしも明確な答えが出ている訳ではないため、投資家の意見の相違によって過小評価が持続する可能性もあります。

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まとめ

現在では、過去と比較して投資に活用できる情報も増え、伝統的な財務情報や企業分析による株価の予測も難しくなっていると言われています。

ビックデータ時代と言われる中、投資家としても『働きがい』のような非財務指標も含めて、新しい情報とどのように向き合うのか真剣に考える必要があります。

近年、投資家の中でもESG投資やSRI投資が話題になっていますが、それらを支持する根拠として、従業員は重要なキーワードの1つになるかもしれませんね。

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参考文献

  • Edmans [2011] "Does the stock market fully value intangibles? Employee satisfaction and equity prices", Journal of Financial Economics

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