資産形成において、現金をどれぐらい残しておくべきなのかは悩ましい問題です。
市場が上がって残した現金に後悔し、市場が下がって足りない現金に後悔するというのは、あまり賢い投資とは言えません。
この記事では、このような問題を解決する方法として、トービンの分離定理に基づく現金保有について書きたいと思います。
効率的フロンティア
投資家であればリターンが高く、リスクが低い投資をしたいと思うのが自然です。

市場には様々なリスク資産(株式、債券など)が存在していますが、それらのあらゆる組み合わせによって実現できるリスクとリターンの範囲を実現可能領域と呼びます。

そして、実現可能領域において任意のリスク水準で最大のリターンをもたらすポートフォリオの集合を効率的フロンティアと呼びます。
リスク資産の組み合わせだけを考えれば、効率的フロンティア上のポートフォリオのどれかに投資をすることが合理的と言えます。
しかし、ここで無リスク資産(現金)を考えると、全ての投資家が選ぶべきポートフォリオがたった1つに決まってしまいます。
分離定理
それは接点ポートフォリオと呼ばれ、リスクリターン平面において無リスク資産から効率的フロンティアへ引いた線の接点です。

投資家は、無リスク資産と接点ポートフォリオへの投資比率を調整することで、点線上のリスクとリターンを選択できるようになります。
ハイリスクハイリターンを目指す投資家は接点ポートフォリオにたくさん投資し、ローリスクローリターンを目指す投資家は接点ポートフォリオに少しだけ投資をします。
このように、投資家がどれだけリスクを求めるかという問題とポートフォリオ選択の問題が分離されることを分離定理と呼びます。
接点ポートフォリオ
それでは、接点ポートフォリオはどんなポートフォリオなのかと気になりますが、接点ポートフォリオはあくまで概念であり、これと1つに決められる訳ではありません。
しかし、理論上は接点ポートフォリオになると言われる候補は存在します。
まず、株式市場だけを考えれば、S&P500やTOPIXのような時価総額加重指数が理論上の接点ポートフォリオになると言われています。
また、債券市場も含めれば、株価指数と債券指数を市場の時価総額で保有するポートフォリオも接点ポートフォリオに近いと言えます。
これをよりシンプルにするならば、伝統的な株式:債券=60:40のバランスファンドなども良い選択肢ではないでしょうか。
これらのポートフォリオに投資する地域を、世界とするか、先進国とするか、米国とするかといった問題はそれほど重要ではありません。
あらゆるリスク資産を含む点が接点ポートフォリオであるという考えに基づけば、投資地域は広いほど理論上の接点ポートフォリオに近づくため、私は世界株式に投資しています。
個人投資家の現金保有
最後に、分離定理をどのように実際の現金保有に落とし込むのかを考えてみましょう。
理論上は、投資家のリスク回避度とポートフォリオのリスクとリターンを考慮して、効用が最大となる投資を導きます。
ただし、個人投資家が自分に適切なリスク水準を正しく知ることは難しいので、リターンを基準に考えることをお勧めします(※1)。
※1 投資は余裕資金でという基本的なリスク管理を行う前提です。
過去の研究(※2)によれば、米国株の無リスク資産に対するリターンの上乗せは5.0%、リスクは19.2%であったと言われています。
※2 Ibbotson and Sinquefield (1982)
これを基準にすると、リスク資産(株式)と無リスク資産(現金)を組み合わせた資産全体のリスクとリターンは以下のようになります。
リスク資産: 無リスク資産 | 期待リターン | 想定リスク |
---|---|---|
0%:100% | 0.0% | 0.0% |
10%:90% | 0.5% | 1.9% |
20%:80% | 1.0% | 3.8% |
30%:70% | 1.5% | 5.8% |
40%:60% | 2.0% | 7.7% |
50%:50% | 2.5% | 9.6% |
60%:40% | 3.0% | 11.5% |
70%:30% | 3.5% | 13.4% |
80%:20% | 4.0% | 15.4% |
90%:10% | 4.5% | 17.3% |
100%:0% | 5.0% | 19.2% |
年率4.1%のリターンがあれば40年間で資産が約5倍になるので、私は現金保有がなるべく総資産の20%を上回らないようにしています。
皆さんもご自身の資産形成の目標に合わせて、ポートフォリオ選択と現金比率について考えてみてはいかがでしょうか。
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